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  1. 「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」に遺棄された子どもを養親・里親へ
  2. 長期施設入所児童の実状
  3. 里親委託の状況
  4. 要養護児童に対する里親委託についての自治体間格差がありすぎること
  5. 要養護児童の養育経費を公開し、里親委託増加への対応を行うこと
  6. 養子縁組は最大の児童福祉であり、「養子法」の制定をすること
  7. 里親支援センターを施設に設置し、その後廃止した事例">里親支援センターを施設に設置し、その後廃止した事例
  8. 社会的養護児童の育成記録の取り扱いと保存期間を定めること
  9. 韓国の里親委託状況


衆議院厚生労働委員会委員様
参議院厚生労働委員会委員様

親が育てられない子どもたちに家庭を!里親連絡会
里親意見書事務局 (川崎市里親)
         (東京都里親)

(案)
「子ども時代のすべてを施設で育つ子ども」をなくすための里親意見書


子どもの権利条約第20条「子どもの家庭で育つ権利」を実現するために、里親としてお願いしたいこと。



 私たちは「子ども時代のすべてを施設で育つ子ども」がいなくなって欲しいとの思いから、この「里親意見書」を提出するために集まった里親有志です。  里親制度には、「里親は養子のみ希望している」「里親は子どもをえり好みしている」など、さまざまに流布された誤解や勘違いがあります。多くの里親は、子どもが施設ではなく家庭で育って欲しいとの思いから里親登録し、子どもの委託を待ち望んでいます。  議員及び関係者におかれましては、この意見書にある要養護児童の実態をご理解の上、長期施設入所児童の縮減、里親委託率の向上についての方策など、ご検討下されたくお願い申し上げます。

 ※(注)この意見書では、特に断りのない場合は、厚生労働省の5年ごとの調査「養護施設入所児童等調査結果の要点(平成15年2月1日)」(以降、「厚労省調査」という)及び「厚生労働省福祉行政報告例」を基礎資料としています。




1.「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」に遺棄された子どもを養親・里親へ

 平成20年5月20日付読売新聞によると、昨年5月に設置した熊本市の「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」に3月末までに遺棄された子どもは17人(男13人、女4人)であり、親の身元が判明した9名のうち、1人だけが親元に引き取られ、それ以外の16人は、全員が乳児院などの施設に入所しているとのことです。  親に遺棄された子どもは、それに代わる家庭を与えられるべきであるにもかかわらず、親権者が不明であるために、人生の一番大切な乳幼児期を乳児院で過ごし、特定の養育者との愛着を育み、人としての無条件の信頼関係を作ることができません。
 厚労省行政報告例によると、平成19年3月末現在の熊本県における要養護児童の里親委託率は、4.3%(全国平均9.4%)であり、全国の62の都道府県政令市のなかで、上位から53番目の里親委託率となっています。  乳児院の定員充足率は101.7%(全国平均80.5%)であり、60人定員のところを61人の乳幼児を、他県の乳児院も含め入所させている状況です。児童養護施設の定員充足率も92.1%(全国平均88.2%)と、危機的な状況となっています。  にもかかわらず、登録里親86家庭のうち、28家庭に35人の児童が委託され、登録里親への児童委託率は、32.6%(全国平均31.1%)と低いままです。
 児童福祉法第33条の七では、「児童相談所長は、親権を行う者及び未成年後見人のない児童について、その福祉のため必要があるときは、家庭裁判所に対し未成年後見人の選任を請求しなければならない。」とあり、また、戸籍法第五十七条の第二項でも、「市町村長は、氏名をつけ、本籍を定め…」と、規定されています。  もし、未成年後見人が選任されているのであり、その判断が、「乳幼児には里親養育ではなく長期間の乳児院養育及び養護施設養育が最善の利益である」とのことであれば、その適格性を疑われることにもなりかねません。  「こうのとりのゆりかご」を設置した慈恵病院の蓮田理事長も、「預けられた子どもが家庭で育てられることが大切だ」と述べているように、遺棄された子どもを乳児院・児童養護施設に入れるために「こうのとりのゆりかご」を設置したのではありません。 しかし、行政が里親委託に熱心でない地域に「こうのとりのゆりかご」があるために、すべての棄児が乳児院入所となっている現状があります。前知事が乳児院の元院長だったこととも関係あるのでしょうか。  平成14年9月5日付厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知「里親制度の運営について」及び同日付「養子制度等の運用について」では、都道府県市をまたがる里親委託や養子縁組について定めています。熊本県内に委託出来る里親や養子縁組里親がいないのであれば、他県に委託可能な里親の照会を行うべきですが、この通達が活用されていません。  たとえば、道州単位や全国単位の里親委託ネットワークを設置し、「こうのとりのゆりかご」などへの遺棄児童は、1〜3ヶ月以内に親が現れれず、県内で里親候補がいなければ、すみやかに里親委託ネットワーク内での養子縁組や養育里親委託を行えるよう里親制度を整備して下さい。



2.長期施設入所児童の実状


@児童養護施設で10年以上育つ子どもが1割強います

「厚労省調査」では、児童養護施設の入所児童の平均入所期間は4.4年(平成10年調査では4.8年)となっています。  同調査によると、10年以上児童養護施設に入所している児童数は3,125人であり、全入所児童(30,416人)の10.3%にあたります、また、平均入所期間4.4年を超える5年以上入所している児童数は10,436人であり、全入所児童の34.3%になります。(図2) また、乳児院から養護施設に措置変更された児童は5,557人であり、養護施設入所児童の18.3%になります。(図3)

 同調査の「児童の今後の見通し」によると、乳児院から養護施設へ措置変更される見通しの児童は、乳児院在籍児童の25.6%(773人)になります。 同調査には、乳児院・養護施設と継続する通算入所期間の調査項目がないため、子ども時代の全てを  施設で育つ子どもの実数は正確に把握できませんが、乳児院の平均入所期間が0.9年と1年未満であることを考えると、乳児院に長期入所し、家庭復帰出来ずに児童養護施設に措置変更された児童ほど、子ども時代の大半を施設で育つリスクが高いと考えられます。  この長期入所児童は、次から次へと入所し、短期間滞在し家庭へ帰っていく他の9割の児童を見送り続ける、いわば、施設に置き去られた子どもといえます。  乳児院・児童養護施設の通算入所期間を調査項目にあげるとともに、乳児院・児童養護施設の入所年限を定め、長期になりそうな子どもは里親委託を優先するなど、長期入所児童を作らない仕組みが必要です。
A児童養護施設・乳児院在籍児童の9.1%が「両親ともいない」「両親とも不明」

 「厚労省調査」によると、児童養護施設在籍児童の30,416人中、「両親ともいない」が1,509人(5.0%)、「両親とも不明」が954人(3.1%)、「不詳」が117人(0.4%)であり、合計すると、2,580人(8.5%)もの子どもが、「両親がいない」「両親が不明」「不詳」であるにもかかわらず、養護施設に入所し続けています。(図4)

 乳児院児では、3,023人中、「両親ともいない」が47人(1.6%)、「両親とも不明」が84人(2.8%)、「不詳」が336人(11.1%)であり、合計すると467人(15.4%)もの子どもが、「両親がいない」「両親が不明」「不詳」であるにもかかわらず、乳児院に入所し続けています。(図5)

 児童養護施設・乳児院の全体では、3,047人(9.1%)もの児童が「両親ともいない」「両親とも不明」「不詳」の状況になっています。



 ちなみに、里親委託児童の保護者の状況については、両親又は一人親がいる児童は1,663人(67.8%)、「両親がいない」「両親が不明」「不詳」は791人(32.2%)と、乳児院在籍児童・児童養護施在籍児童より高くなっています。(図6)

「両親がいない」「両親が不明」 「不詳」の子どもは、優先的に里親委託を行うべきです。

B児童養護施設・乳児院児童の17.2%が家族との交流がない

「厚労省調査」によると、児童養護施設在籍児童の30,416人中、「家族との交流なし」が5,057人(16.6%)となっています。(図7)

 また、乳児院児3,023人中、「家族との交流なし」が708人(23.4%)となっています。(図8) 児童養護施設・乳児院を合わせると、「家族との交流のない」子どもは5,765人(17.2%)となります。 この「家族との交流がない」児童については、将来的にも家庭復帰が望める状況にないと思われるので、積極的に里親委託へ転換して行くべきでしょう。

 なお、里親委託児童については、「家族との交流なし」が1,858人(75.7%)と率が高いものの、「交流あり」の合計が565人(23.0%)であり、里親家庭においても、子どもと原家庭との交流が行われていることを示しています。(図9)

C家庭のイメージや人生のライフイメージがない長期入所児童

 子ども時代の全てを施設で育った人にとっては、結婚生活が初めての家庭生活です。施設を出た後の人生は、働き、結婚し、地域社会での付き合いの中で生活し、子どもを育て、年老いていきます。しかし、トータル・ライフイメージが無いため、施設を出た後の人生イメージが空白であり、人生設計を作ることが出来ません。

 人は、無自覚であるならば、育てられたように子どもを育てます。虐待家庭で育った方の、虐待の連鎖のリスクと同じように、施設養育の連鎖のリスクも高いといえます。  児童養護施設は交代勤務職場であり、職員1人で20人ほどの子どもを見ています。職員一人が5、6人の子どもを担当する担当制を導入している施設もありますが、担当だからといって、担当の子だけを見るわけにはいきません。担当する期間も短くて1年、長くても数年で変わり、継続的な人間関係を作ることはできません。

 また、在籍児童の平均在所年数は4.4年であり、子ども同士の安定し継続した人間関係も望むべくもありません。この細切れの人間関係が染みつくと、施設を出た後の継続した人間関係が困難になります。職員配置基準が1対6と少ないため、職員は、どの子にも平等に関わりを持つ必要があり、子どもと広く浅く関わります。この希薄な人間関係を学習した子どもは、結婚生活や、生まれた子どもとの濃厚な関係が煩わしくなり、施設での部屋替えや担当替えを行うように、簡単に家庭をリセットしようとします。

 家庭生活は、多くても5、6人であり、単純で濃厚な人間関係を作ることができます。しかし、児童養護施設では、児童数60人の平均的施設でも、児童60人、職員10人の複雑な人間関係があります。その人間関係の組み合わせは、単純計算でも70の階乗となり、子どもには複雑すぎるものです。

D長期入所児童には、「家庭生活体験事業」ではなく、家庭が必要です

 家庭を知らずに社会に出る長期施設入所児童の問題に対し、週末里親や季節里親などのボランティア家庭で家庭を体験させる「家庭生活体験事業」を行う施設もありますが、長期入所児童に必要なのは、「家庭生活体験」ではなく、「家庭生活」そのものなのです。「家庭生活体験事業」で長期施設入所児童の問題解決をはかるのではなく、子どもの権利条約第20条で定める「代替家庭で育つ権利」に基づき、長期入所になりそうな児童を優先して、里親家庭へ委託する施策を構築することが必要です。

3.里親委託の状況

@登録里親への子どもの委託は3割

 厚生労働省行政報告例によると、平成19年3月末現在、登録里親7,882家庭に対して、2,453家庭(31.1%)の里親に、3,424人の子どもが委託されています。1家庭あたり児童1.4人の委託になります。
 ただし、4〜6人受託する里親ファミリーホーム(35ホーム、委託児童158人、H15年度*)をのぞくと、1家庭あたり、1.28人の委託となります。(平成17年8月里親ファミリーホーム全国実態調査報告書より)

 残りの5,429家庭(68.9%)の未委託里親は、子どもの委託がないままに里親とは名ばかりの存在となっています。この5,429家庭の未委託里親は、先ほどの、子ども時代の全てを施設で過ごす3,125人の子どもを引き受けても余りある数字であり、また、乳児院の子ども3,023人全員を受託し、国際的にも批判のある乳児入所施設を全廃出来る数字でもあります。

 10年以上児童養護施設に入所中の家庭で育つ事ができない子どもが3,125人、乳児院でも親との交流のない乳幼児が708人いながら、片や、子どもへの熱い思いを持って登録した5,429もの里親家庭が、長年子どもの委託がないままに思いが朽ちていく。この現状は、看過できるものではありません。 また、児童の受託を1人だけではなく、子どもの成長に併せて、二人目、三人目の受託を希望する里親も少なくありません。血がつながらなくても兄弟姉妹のように育ち、里親家庭を巣立った後も、兄弟同様の付き合いをしているケースもあります。

 仮に、里親への児童の委託率を現状のままとし、里親家庭への委託児童数を平均2名とすると、1,400人以上の子どもが里親家庭に行くことが出来ます。登録里親への児童の委託率をあげ、さらに平均委託児童数を増やせば、より多くの子どもが里親家庭に行くことが可能となります。

 登録里親への児童委託率の低さを、「子どものための幅広い選択を行うために必要である」と容認する大学関係者もいます。しかし、「登録後何年経ってもマッチングの話すらない」「養子縁組希望は3割に過ぎず、残りは養育希望であるにもかかわらず委託されない」「短期間で異動する里親委託の経験のない児童福祉司」「一般事務職が児童福祉司になる」「乳児院・児童養護施設の経営の安定のために施設入所を優先する」「自治体幹部職員が児童福祉施設の施設長に天下りする」「養護施設職員が大学教員となり、施設と大学のパイプをつなげる」「多くの社会福祉系大学のカリキュラムに里親制度がない」など、里親委託を阻害する原因が複合的・重層的にあります。

 また、後述しますが、登録里親への児童委託率が、第1位の自治体と最下位の自治体では5.8倍もの格差があります。里親への児童委託率が低い自治体ほど、「子どもへの幅広い選択を行い、たくさんの里親家庭を検討したが適切な里親がいないため、里親よりも子どもの養育に適した乳児院・児童養護施設に入所させた」と考えることには無理があります。
 
 大学関係者は、乳児院・児童養護施設に学生の実習をお願いする立場であり、また卒業生の就職先でもあり、児童福祉研究のフィールドでもあるため、施設養育への批判的な意見は出しづらいと考えます。

A「一貫養育」は、「子どもの家庭で育つ権利」の侵害です

 平成16年の児童福祉法改正では、乳児院の入所期限が0〜2歳から0〜6歳まで延長されました。また、児童養護施設でも、0歳から乳幼児を入所させることができるようになりました。

 それ以前は、乳児院在所中に家庭復帰できなかった子どもには、措置変更の際に、児童養護施設入所か里親委託を検討する自治体もあり、乳幼児が里親家庭に行く数少ないチャンスとなっていました。 「厚労省調査」によると、2歳で里親委託される子どもが525人であり、里親委託児童数2,454人の21,4%を占めます。

 0歳から2歳までの里親委託児童率は45.3%、0〜5歳では72.0%にもなります。(図11)



 乳幼児期の愛着形成の大切さを考えれば、もっと増えていい数字です。

 また、里親委託児童の32.6%(799人)が、乳児院から委託されています。これは、家庭から里親家庭に委託された児童数851人(34.7%)と並ぶ数であり、乳児院からの措置変更時に、里親委託を検討し、現実にかなりの数の乳幼児が、里親へ委託されている実態が伺われます。(図12)

 このような状況であるため、乳児院の入所期間が6歳まで延長されると、乳児院の子どもが里親家庭にいくチャンスが少なくなります。
 人間としての基本的信頼関係の構築は、乳幼児期の愛着形成が基礎になります。この特定の養育者への愛着を形成すべき大切な時期に、「一貫養育」と称した乳幼児の長期施設養育を行うのは、愛着形成に逆行したものと言わざるを得ません。

 乳児院では、担当制養育制の導入をもって解決を図るかのようにいいますが、子ども1.7人に直接処遇職員1名の配置と三直公休の週40時間勤務体制では、職員1人あたり6〜7名の乳幼児の世話をすることになり、担当の子どもの世話だけをすることは不可能です。

 ところが、平成19年9月26日付読売新聞によると、名古屋市では「0歳から18歳まで一貫養育する施設」の建設が検討されています。

その根拠として、「2歳での乳児院から児童養護施設への措置変更は子どもにショックを与える」としています。



 乳児院に0歳で入所する子どもは2,442人(80.8%)であり、8割を超えています。次いで1歳522人(17.3%)、2歳49人(1.6%)と減少しています。(図13)

 また、入所期間は、1年未満が1,745人(57.70%)、1年以上2年未満が968人(32.0%)、2年以上が309人(10.2%)となっています。(図14)

 乳児院の平均入所期間は0.9年であり、大多数の乳幼児は短期間で家庭復帰をしています。乳児院から児童養護施設へ措置変更されるほど長期入所している幼児は、そもそも里親家庭への委託や養子縁組を真っ先に検討すべきであり、「一貫養育施設」ありきの結論は、本末転倒であると言えます。「たった1人で児童養護施設に行くのは可愛そう」と、あたかも子どもの立場に立っているかの論調は、乳幼児を、乳児院に慣れ親しむ程に入れっぱなしにし、里親委託を検討もせず、ひとりぼっちのままにしておく児童相談所の不作為をごまかす物でしかありません。

 子ども時代の全てを乳児院・児童養護施設で育ち、家庭生活の温かさを知らずに社会に出て行く子どもを増やさないためにも、長期入所の可能性のある乳幼児は里親委託を優先し、「一貫養育施設」の設置には歯止めをかけるべきです。その上で、里親への0歳児委託を増やしていく必要があります。



B乳幼児に必要なものは、替わらない大人との継続した生活です

○乳幼児は家庭での愛着形成が必要

 欧米では、社会的養護の主流は里親養育などの家庭的養育であり、乳幼児の長期施設収容は皆無だと聞きます。施設養育は、中学生以上、又は、重篤なケアを必要とする子どもだけとなっています。その施設も、子ども10人に職員が20人以上などという、日本とは逆の濃厚なケアを行える体制となっています。

 片や日本では、児童養護施設では子ども6人に職員1人、乳児院では子ども1.7人に職員1名の配置であり、三直公休の勤務態勢を組むと、実際の直接処遇は、児童養護施設では職員一人に子ども24人、乳児院では職員一人に子ども7人の計算になります。

 また、職員の平均勤続年数は3、4年であり、担当制と言いながら毎年担当が替わったり、部屋替えがあったりと、特定の職員との継続した愛着形成は望むべくもありません。乳幼児は、建物や施設環境に愛着を持つのではありません。移り変わっていく大人ではなく、自分だけを愛してくれる「いなくならない大人」とその環境に愛着を持つものなのです。しかし、乳児を里親に委託しているのは、62都道府県政令市のうち16自治体のみです。



 ○里親不調の一因は、反応性愛着障害(RAD−Reactive Attachment Disorder)  平成14年(2002年)11月3日、栃木県宇都宮市で、養育里親が3歳の女の子を殴って死なせてしまいました。亡くなった女の子は、生後すぐに乳児院に入れられ、3才過ぎて委託されるまで乳児院で育ちました。一方、1才まで母親の元で育てられ、妹と一緒に乳児院に入所した兄(当時4才)は、虐待の形跡も見られず、里親との関係は良好だったようです。

 このことから、生後すぐに乳児院に入所し、24間の集団養育環境で育った妹は、反応性愛着障害児の可能性があり、大変に育てにくい子であったと推測しています。

 特定の養育者との愛着形成が出来ず「反応性愛着障害」となった子どもの養育が大変に難しく、その結果、虐待につながりかねないということは、過去から多くの里親たちが指摘してきたことです。 日本でも近年知られてきたRAD(Reactive Attachment Disorder−反応性愛着障害)は、乳児院など施設の集団養育が長く、特定の養育者との信頼関係を築き得なかった子どもがなるといわれ、DSM-W(精神障害の診断と統計の手引)にも項目があり、診断名を付けられる子どもも増えてきました。

 「厚労省調査」によると、里親家庭からの措置変更数は、里親家庭から里親家庭へ78名、児童養護施設へ269名、情緒障害児施設へ11名、自立支援施設へ12名、乳児院へ5名、合計375名が措置変更となっており、これは、同調査の里親委託児童2,454名の15%にあたります。「里親不調」の統計的な調査がないため、推測でしか言えませんが、反応性愛着障害による「里親不調」もかなり含まれるものと考えられます。

 アメリカでは、反応性愛着障害を治療する通所施設(attachment center)が、州ごと作られていると聞きます。日本でも、「乳幼児は原則里親委託」を基本とし、乳児院への入所期間を3ヶ月以内に制限すれば、「反応性愛着障害」やその結果としての「里親不調」の問題は減らせるものと考えます。
○調整弁として使われる里親委託、児童養護施設の新規建設は里親委託をさらに減らします

 少子化により子どもの数が減っているにもかかわらず、児童養護施設・乳児院への措置児童の割合は減らず、里親委託児童の割合のみが減少していました。登録里親への委託は2〜3割を推移しているので、乳児院・児童養護施設の入所児童の減少を、里親委託の対象児で補っていると言えます。

 里親委託率は、平成11〜13年度で下げ止まりし、少しずつ増えていますが、平成19年3月末の児童養護施設の定員充足率88.2%の数字から見ると、児童養護施設が満杯状態に近くなり、その受け皿として里親委託が増えている状況です。

 児童養護施設の数は、平成元年度の535施設から減少し、平成9年度の526施設から増加に転じ、平成18年度では560施設となり、さらに児童養護施設の建設は続いています。児童養護施設の運営の安定のためには、定員数の子どもが必要であり、定員に満たなければ、里親に行くべき子どもまで施設に入れることになります。子どもは、乳児院や児童養護施設の定員を満たすために生まれてきたのではありません。たった1人の子どもとして、家庭で大切に育てられるために生まれてきたのです。



C里親家庭の状況

 厚労省調査では、調査日(平成15年2月1日)現在の、子どもを受託している里親家庭(1,958家庭)の状況を集計しています。平成15年3月末の数字は、登録里親7,161家庭、委託家庭1,873家庭、児童委託率26.2%です。従って、登録里親全体の状況を示しているわけではありません。未委託里親を含めた登録里親全体の調査も必要でしょう。

 子どもが委託されている里親のみの調査では、一般家庭よりも年収や自家所有率が高く、年齢も子育て世代と比べて全体的に高い傾向があります。

○養子縁組希望の里親は3割弱

 親権者である実親が里親委託を承諾しないのは、「子どもを里親にとられる」という感情的な誤解があります。厚労省調査では、里親申込の動機のなかで、「養子を得たい」と答えている里親は29.8%であり、それ以外の理由「児童福祉への理解」「子どもを育てたいから」が65.9%を占めています。(図15)

○登録期間5年未満が4割弱

 里親登録して10年たっても子どもが委託されない未委託里親の話をよく聞きます。未委託期間の調査も必要でしょう。(図16)

 ○里親への委託児童数

1,958の里親家庭に2,454名の子どもが委託され、一家庭平均1.25名です。(図17)v
 ○里父は50歳以上が半数以上

 里親の年齢は、50歳代が里父(42.2%)・里母(37.4%)と最も多く、50歳代以上の里親は里父(58.3%)・里母(48.9%)と、半数を占めています。(図18)

 ○一般家庭よりも高い里親家庭の年収

 里親家庭の平均年収は、一般家庭の平均年収よりも、124.2万円高くなっています。(図19)「お金(養育費)をあてにして」里親になるような誤解が一部にありますが、現状は、一般家庭より平均年収が高くなっています。

 逆に言うと、一般家庭平均よりも年収が低い里親希望者が登録を断られているか、登録されても子どもが委託されていない可能性も考えられます。

 ○里親家庭の住宅の自己所有率は84.8%

 里親家庭の住宅の自己所有率は、一戸建て・集合住宅を合わせると84.8%になります。(図20) 総務省の平成15年住宅・土地統計調査によると、持ち家に住んでいる世帯の割合(持ち家率)は、全国平均で60.0%となっています。



4.要養護児童に対する里親委託についての自治体間格差がありすぎること


@要養護児童の里親委託率の自治体間格差(平成19年3月現在)


 都道府県市別に要養護児童の里親委託率をみると、第1位(28.9%)の新潟県と、最下位の堺市(1.1%)を比較すると、実に26.3倍もの格差があります。新潟県で措置された子どもの3割弱が里親家庭に行くことができるのに比して、堺市では要養護児童284人のうち3人が里親家庭に委託されています。(p.10図23)

 要養護児童の里親委託率をランク別に見ると、5%未満の自治体が14(構成比22.6%)、5%以上10%未満の自治体が19(構成比30.6%)、10%以上15%未満の自治体が20(構成比32.3%)であり、15%に達しない自治体は、53自治体(構成比90.3%)となっています。(図21)

 「子ども・子育て応援プラン」の目標では、平成14年度の全国平均里親委託率7.4%を、平成21年度までに二倍の15.0%にすることになっています。平成18年度末の要養護児童数(36,326人)で計算すると、里親委託率を9.4%(18年度)から15.0%(21年度)にあげるには、里親委託児童数3,424人(18年度)を5,449人(21年度)にする必要があり、新たに2,025人以上の児童を里親に委託しなくてはなりません。15%に達しない53自治体で平均すると、1自治体あたり38.2人の新規委託が必要となり、19〜21年度の年平均にすると、12.7人の児童を毎年新規委託することになります。

 里親委託率が15%に満たない53の自治体では、里親委託率を増やす計画を立てているのでしょうか。


 都道府県市別に見ると、登録里親に対する児童委託率が第1位(57.8%)の福岡市と、最下位の石川県及び堺市(共に10.0%)を比較すると、5.8倍もの格差があります。福岡市では登録里親の6割弱に児童が委託されるのに比して、石川県及び堺市では1割しか委託されません。(p.10図24)

 登録里親に対する児童委託率をランク別に見ると、10%以上20%未満の自治体が13、20%以上30%未満の自治体が18、30%以上40%未満の自治体が23、40%以上50%未満の自治体が4であり、登録里親への児童委託率が50%に達しない自治体は、58自治体(93.5%)となっています。(図22)

 平成18年度末の全国実績は、7,882の登録里親のうち、2,453家庭に3,424人の児童が委託され、児童委託率は31.1%、ひと家庭あたりの委託児童数は平均1.4人となっています。仮に、児童委託率を50%にあげると、平均委託児童数をそのままとした場合でも、5,517人の児童を登録里親に委託することが可能になり、10年以上の長期入所児童3,125人(p3)を家庭で育てることができます。

 里親登録して10年たっても子どもが委託されないと嘆く未委託里親も少なくありません。行政が認定し、登録した熱意のある里親に、どうして子どもが委託されないのでしょうか。

 登録里親への児童委託率の低さは、2007年10月7日に盛岡で開催された第53回全国里親大会でも、「里親になっても子どもが委託されない実情」を訴えた会場発言があり、参加した里親たちから割れんばかりの拍手による賛同があったように、全国の里親の共通の悩みとなっています。

 登録里親への児童委託率の5.8倍もの自治体間格差と、未委託里親の多い自治体の委託の実態について、原因を調査し、児童委託率をあげる施策を講じるべきです。



【都道府県市別里親委託率】
【登録里親への児童委託率】




5.要養護児童の養育経費を公開し、里親委託増加への対応を行うこと

 平成19年3月に公表された、千葉県「社会的養護を必要とする子どもたちのために〜千葉県における社会的資源のあり方について 答申〜」によると、県立乳児院の児童1名にかかる経費は月額約96万円、県立児童養護施設の児童1名にかる経費は月額約45万円とあります。

 仮に0歳から18歳まで県立乳児院・児童養護施設で育つならば、約1億1,520万円の経費がかかります。民間施設の場合は、人件費が低いこともあり、3分の2の経費となっていますが、それでも児童一人につき約7,680万円の経費がかかることになります。

 片や里親養育は、養育費と里親手当を合わせて月額約82,000円であり、0歳から18歳までの養育経費は1,820万円となります。児童福祉法の改正により21年度から里親手当が増額される可能性がありますが、それでも約2,575万円ほどです。(図25)

 里親養育経費と民間施設養育経費の差額は、児童一人あたり約5,105万円となり、県立施設との差額は8,945万円となります。同じ社会的養護といいながら、児童一人にかける金額は、こんなに大きな違いがあります。

(計算式)
県立乳児院・児童養護施設… 96万円×12ヶ月×2.5年+45万円×12ヶ月×16年=1億1,520万円
民間乳児院・児童養護施設… 64万円×12ヶ月×2.5年+30万円×12ヶ月×16年= 7,680万円
里親養育(平成20年度まで)  8.2万円×12ヶ月×18.5年=1,820万円
里親養育(平成21年度から) 11.6万円×12ヶ月×18.5年=2,575万円 ※試案にはこちらを使う

  ※18歳の誕生日後の3月末に措置解除されるため、措置期間は平均18.5歳とし、乳児院の措置変更を平均2.5歳とした。

 児童相談所が乳児院・児童養護施設措置を優先し、里親委託に手間がかかると敬遠するのは、児童相談所の児童福祉司の抱えるケース数が多いため里親委託に時間をとれないことや、里親委託後のケアの大変さがあげられます。また、短期間で異動する児童相談所の児童福祉司に、里親委託や里親支援のノウハウや経験が蓄積されない現実もあります。里親委託は、子どもを委託してから自立するまで、子どもの委託期間全てに置いて、関わる必要があります。欧米では、里親ケースワーカーは、20ケース程度しか担当しないという話も聞きます。里親委託の増加は、里親ケースワーカーの増加とセットで進める必要があります。
 平成19年3月に公表された、千葉県「社会的養護を必要とする子どもたちのために〜千葉県における社会的資源のあり方について 答申〜」によると、県立乳児院の児童1名にかかる経費は月額約96万円、県立児童養護施設の児童1名にかる経費は月額約45万円とあります。
 3ページで述べた、10年以上養護施設に入所している児童数3,125人で試算すると、19年間の里親委託経費は1,102億円、民間施設2,400億、公立施設3,600億円となり、里親委託経費との差は、民間施設1,298億円(年当たり68億円)、公立施設2,498億円(年当たり131.5億円)となります。(図27)



 3,125名の児童に対する直接処遇職員は、児童6名あたり職員1名の配置基準によると521名の職員数となります。また、3,125名の児童を担当する里親ケースワーカーは156名であり、施設職員を里親ケースワーカーへ誘導するとともに、差額を職員配置基準の改善に資することも可能です。(すべての養護施設在籍児童(30,416人)全員を里親委託に切り替える場合は、単純に10倍するわけにはいきません。)

 このように長期入所児童を里親に委託し、里親ワーカーによるきめ細かな支援を行うことは、多大なる経費節減になるだけではありません。措置解除後の自立支援経費を縮減することも可能であり、子どもの権利条約第20条の「子どもの家庭で育つ権利」を実現するものです。

 一昨年(2006年)、韓国で開催されたアジア里親大会では、日本と同じ施設大国であった韓国が、10年間で里親養育が半数になったと報告されました。その大きな理由のひとつに、里親委託事業を公的機関だけでなく、民間機関にも行わせ、官民で競わせているとのことです。

 里親養育児童が80万人いるアメリカなどでも、里親委託や委託後のケアについて、民間社会福祉事務所に行わせています。

 日本でも、里親委託事業を市場化テストの対象とし、民間里親委託(支援)機関と児童相談所とによる里親委託(支援)事業を競わせることが必要です。

6.養子縁組は最大の児童福祉であり、「養子法」の制定をすること


 乳児院から18歳まで施設で育つ経費については前述しましたが、さらに、養子縁組児童については、試験養育期間のみ経費がかかりますが、養子縁組成立後は、一般家庭と変わりない経費負担となります。経費がかかるとしても、里親委託養育経費の里親ワーカー分のみとなります。

 乳児院・児童養護施設で育つ子どもにかける養育経費が不要になるだけでなく、親が育てられない子どもに、恒久的な親と家庭を与えることが出来ます。

 日本では、里親制度は省令で定められていますが、養子縁組については、民法のいくつかの条文で規定され、さらに、厚生労働省通達で運用されているにすぎません。

 先進諸国では、親が育てられない子どもに親を与える、子どもにとって最大の福祉であるとの位置づけから、「養子法」を制定し、養子縁組の手続きを定めています。

 さらに、国際養子縁組について国が責任を持って管理することを定めたハーグ条約の批准にむけ、国内法の整備を行うことも必要です。

7.里親支援センターを施設に設置し、その後廃止した事例


 東京都では、昭和47年(1972年)の東京都児童福祉審議会「東京都における里親制度のあり方について」の意見具申を受けて、昭和48年(1973年)4月に養子縁組を対象としない新たな里親制度である「養育家庭制度」を発足させました。当初は、石神井学園・東京育成園・調布学園・至誠学園の4つの児童養護施設を養育家庭センターに指定し、養育家庭の支援や児童と養育家庭とのマッチングなどの業務を委託しました。

 その後、東京都の養育家庭委託数は順調に伸び、養育家庭センターも9か所の児童養護施設(8)・乳児院(1)に設置されましたが、児童委託数は295名(昭和60年度)、登録家庭数は276家庭(昭和61年度)をピークに減少し、委託児童数179名(平成8年度)、登録家庭数201家庭(平成5〜7年度)まで落ち込みました。そして、


平成14年(2002年)3月に閉鎖され、29年間の歴史を閉じました。(図28)


 その後は、児童相談所が直接養育家庭と関わることとなり、登録養育家庭数・委託児童数が共に右肩上がりに増加し、平成18年度末では、委託児童数406人、登録養育家庭429と過去最高の数字となっています。

 東京都の里親会であった「東京都養育家庭連絡会」は、平成16年にNPO法人「東京養育家庭の会」へと移行し、東京都と養育家庭支援業務委託契約を結び、養育家庭自身による養育家庭への支援事業を行うようになりました。また、引退した養育家庭や研究者を中心に平成9年に「里親子支援のアン基金プロジェクト」が設立され、その後NPO法人となり、里親家族への支援を目的とした「里親と子どものための里親養育リソースセンター」の設立準備を進めています。

 児童養護施設・乳児院に設置され、29年間続いてきた養育家庭センターが廃止された理由は様々ですが、後期には、硬直した制度への不満も少なからずありました。養育家庭センターを施設に委託しているため、施設職員2名が里親ワーカーとして養育家庭のケアに当たりました。

 「里親ワーカーが施設職員の勤務ローテーションに組み込まれ、100%専任の里親ワーカーは少ない」「いつ連絡してもつかまらない」「施設内の職員異動により里親ワーカーが2・3年で交代し、里親ワーカーのノウハウが蓄積されない」「委託された子どもの養育の大変さを訴えると、集団養育のプロである施設職員に共感的な関わりをしてもらえなかった」「施設職員の立場に縛られ、養育家庭の立場になれないワーカーもいた」「センター長を施設長が兼任しているため、センター長の家庭養育への熱意がセンター間の格差になった」「里親ワーカーを育てる制度がないため、里親ワーカー個人の力量と熱意に負うところがあった」などの、施設に委託することによる問題がありました。
 もちろん、熱意があり、養育家庭と信頼関係で結ばれた里親ワーカーも少なからずいました。時にはセンター長(施設長)と対立し、養育家庭の側に立つ里親ワーカーもいました。しかし、長く勤める里親ワーカーはそれほど多くありませんでした。

 また、当時は児童虐待報道も知られず、少子化による児童養護施設の定員割れが続く中で、「養育家庭に出せる子どもがいない」という理由で施設が子どもを出し渋っていました。

 このように、東京都で先進的に行っていた養育家庭センターが廃止された理由を様々な見地から検証したうえで、里親支援センターを児童養護施設や乳児院に設置することの是非を考える必要があります。施設に委託すれば、施設の経営の安定のために里親よりも施設を優先するのは経営者として当然のことです。児童養護施設と切り離した里親支援センターを設置しなければ、東京都の養育家庭センターの二の舞となりかねません。

 里親を支援するには里親団体が一番の支援団体となります。また、家庭養護促進協会やアン基金プロジェクト、虐待防止センターのような、施設とは無関係の独立した法人による里親支援センターも重要です。里親及び里親関係者が一体となって、里親家庭の支援を行い、多くの子どもが施設から里親家庭に行くことができる里親支援センターの設置を検討して下さい。

8.社会的養護児童の育成記録の取り扱いと保存期間を定めること


 近年、児童養護施設の虐待が表面化し、児童を虐待した児童養護施設に対する損害賠償請求訴訟が行われるようになりました。しかし、裁判所へは、卒園生たちの施設時代の非行などの不適切行動の証拠として、施設側から児童票が提出されています。児童の個人情報、それも、重大な秘匿すべき個人情報であるにも関わらず、当該児童への承諾もなく、施設側の証拠として一方的に裁判に提出されている現状です。

 個人情報保護法は、社会福祉法人も適用されるものであり、何人であっても、本人の同意無く、児童の個人情報を使うことを禁止しています。児童票の本人開示や訴訟などで公開する際の本人同意などの手続きを定めるべきです。

 さらに、里親家庭や養子縁組家庭、児童養護施設の出身者など、社会的養護の児童が成人し、自身の出自を調べるために過去の資料を求めても、廃棄されていたり(東京都では措置解除後7年で文書廃棄)、保存年限が過ぎたなどの理由により、開示を拒否されることがあります。乳幼児期に里親委託や施設入所した状況、当時の親戚関係などの情報などは、過去の児童記録でしか調べることが出来ません。

 自らの出自を知る権利は、全ての人にあります。児童記録の保存期間の明確化、本人開示義務などを定め、子どもの過去を知る権利を保障すべきです。

 ちなみに、イギリスなど児童福祉先進国では、社会的養護の当事者の記録は、本人が死ぬまで保存することになっています。さらに、実親探しをする際には、カウンセリングを受けることを法律で義務づけ、関係機関が協力をして失われた過去を取り戻すことを社会全体で協力しています。(参考文献「実親に逢いたい」)



9.韓国の里親委託状況


 今年(平成20年)9月6日、北海道で「日韓フォスターケア(里親)フォーラム2008江別」が開催され、韓国から3人の里親ケアワーカーが来日し、韓国の里親事情についての報告をしました。

 韓国は1950年代の朝鮮戦争以後の社会的条件の中で、要保護児童が発生した場合、ほとんど施設に入所させて保護してきました。しかし、1991年に国連子どもの権利条約を批准した韓国は、2000年以降、要保護児童に対する保護方法を、地域社会での保護と施設保護をもとにしながらも、可能であれ ば家庭での養育方法に転換して実施するようになりました。

 1990年に、家庭委託事業がソウル、釜山、大田の3ヶ所の社会福祉館がモデル事業として実施されて以来、2003年までに、17箇所の家庭委託支援センターが開設されました。2004年に中央家庭委託支援センターが開設され、その中心的な役割を果たすようになりました。

 韓国の家庭委託の類型は、一般養育家庭委託、代理養育家庭委託、親戚家庭委託に区分されます。 一般家庭委託は血縁関系が全くない里親による家庭委託であり、代理養育家庭委託は親祖父母、外祖父母による養育であり、親戚家庭委託は親祖父母、外祖父母を除いた親戚による養育をいいます。子どものパーマネンシーの観点からは、実親が育てられない場合は親族里親を優先し、子どもの親戚関係を保つようにしています。

 韓国には、未委託里親という概念はなく、里親候補者に研修を行うと、すぐに子どもを委託します。 さらに、韓国では、この十年間、養護施設の新規建設は皆無とのことです。施設を建設すれば、その施設の定員数の子どもが必要になるからです。

 2007年の要保護児童は、韓国34,626人、日本36,326人とほぼ拮抗していますが、里親委託児童は、韓国16,200人(46.8%)、日本3,424人(9.4%)と5倍の格差があります。(図29)

 委託里親数及び委託児童数は、2000年には日本より若干少なかったのが、それぞれ9倍に増えています。(図30,31)
私たちは、この韓国の里親委託の大躍進に学び、「子ども時代のすべてを施設で育つ子ども」を、この日本からなくすために社会に訴えていきたいと思います。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。


※ 韓国・・・韓国福祉統計部
  日本・・・各年3月の厚生労働省福祉行政報告例